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置いときます

じゃがいもHOTEL笹塚店

 

しゃべるボカロとボカロP vol.2 | V.A. | Stripeless

色んなボカロキャラとそのマスターのボカロPが喋り合うコンピアルバムです

 

僕は『じゃがいもHOTEL笹塚店』という朗読劇をやりました

それのテキスト版をこちらに載せておきます〜

 

 その頃僕は怖い夢を度々見ていた。知らない曲を大勢の前で演奏する夢。お客さんの行列が僕の会計を待っているのに、電卓をうまく打てない夢。友達のお兄ちゃんの骨を埋める夢、等。

 なかなか旅行ができない時期ではあったけど、時間を見つけて笹塚のホテルに泊まってみた。環境を変えたら悪夢はなくなるかもしれない。そう思ったのだ。

 

 久しぶりのホテルで見た夢にはじゃがいもHOTELのミクさんが出てきた。

「いらっしゃいませ。ようこそじゃがいもHOTELへ」

「あ、僕がいま書いている曲の世界ですね」

「ええ。じゃがいもHOTEL笹塚店です」

「他にもあるんですか?」

「都内ですと下北沢と赤羽。他に、千葉県でしたら松戸、西船橋にもございます」

「色んなところにあるんですね」

「はい。あなたが泊まったホテルがじゃがいもHOTELにつながっていくのです」

「なんだか美しい言葉ですね。あの、HOTELの中を見てもよろしいですか?」

「どうぞこちらへ」

 


「あなたはずっと何に怯えているんですか? あなたが暗い想像をするたび、このホテルの壁紙は剥がれ、シャワーの温度は安定しなくなり、シンクの隙間からは黒いヌメヌメとした液が垂れていきます」

「僕は何に怯えているんでしょうね……。僕は気を抜くとすぐ他人に失礼なことをしてしまいます。それで、そのせいで怒られないか、いつも不安です」

「あなたがじゃがいもHOTELを訪れたことで、じゃがいもたちは喜んでいます。ちなみに、じゃがいもたちはいつも助けてと呼んでいます。その声にあなたは耳を傾けるべきです」

「具体的にはどうしたらよいのでしょう?」

「たとえば、散歩に行きたいなと思ったらすぐ散歩に行くべきです。あなたはいつもそれを後回しにしてしまう」

「たしかに。すいませんでした。ぼくはじゃがいもたちを大事にします」

「それは重要なことです。そうしないと彼らは暴動を起こすでしょう」

「暴動がおきるとどうなるのですか?」

「あなたはまともな思考が持てなくなり、簡単な動きも大変になり、疲れやすくなり、寝ても寝ても眠く、食べても食べてもお腹が空き、満足いく歌は書けないまま、タスクだけがたまっていきます。あと風邪をひきやすくなります」

「それはこわいですね。そして、その暴動は何度かすでに起きていますね……」

「あなたが眠らないと、じゃがいもたちも眠れません。あなたが怪我をするとじゃがいもたちも傷むのです。あの子たちは、あなたがいい歌を書けるように、ゆったりお風呂に浸かったり、ごろごろしたり、ふかふかのオフトンで眠ったりしています。キテさん、あなたは壊れてはいけないんです」

 


 目が覚めるとそこは現実の笹塚のベッドの上だった。部屋が京王線と同じ高さにあるせいか、電車の音が少し聞こえた。夢の世界の情景を思い出していたら、あのHOTELではゆっくりと天井が回っていたことに気付いた。僕はいつでも、回る天井に気付くのが遅いのだ。

 忘れ物がないように、部屋をじっくりながめた。朝の光、明るい洗面台、清掃の行き届いた床。またここに来よう、そう思った。

 ルームキーを返して外に出ると、さまざまな目的を持った人たちが歩いていた。その中で、じゃがいもHOTELの夢を見て、これからはじゃがいもたちを大事にしようと思っているのは僕だけだろう。

 駅前の蕎麦屋さんに入り、かけそばを食べた。飲み込んだつゆが喉を通り、胃を温かく満たしていくのがわかった。

「キテさん、あなたは壊れてはいけないんです」

 じゃがいもHOTELのミクさんは、そう言っていた。